胸にひそめた、私的もののあはれ等。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「おう!おんじさん。なんしぎゃ来たこぅ!」

隆信は破顔一笑した。どうも空閑三河は、この隆信を憎めない。巷で言う如く粗野ではあるのだが、そこはかとなく愛嬌がある。相性が良いという事だろうか。

姉村の戸次勢を撃退したのち、納富勢は再度東への布陣を整え、鍋島小川空閑は一旦村中城へ引き上げたのであった。委細の報告を受けた隆信としても、空閑勢が帰参するとは意外な事であった。

「なんしぎゃて、あさん、加勢しぎゃ来たとやっか。有り難かろうが!」

声高に悪態をついて、空閑も笑った。

「死んに来たてや。わっはっは。」

「大将!勝つ気やろうもん。」

「今回ばっかいは参ったぞい。豊州公御自らおいば懲らしめぎゃ来ってんなんてん、のう。こがん弱かとこれ。」

「あさんが欲にかられてあちこち攻むっけんくさ。ちったぁ反省せい。」

空閑は大槍を地面にずしんと鳴らした。

「大友に指図さるっいわれは無かろう。だいたいがくさ、大友も少弐も権威ばっかいで頼りなかやっか。しかも信用に足らん。」

隆信は城の門に立ち、一行を出迎えていた。蒸し暑い折、内輪をバタバタと仰いでいる。

「ま、ひとまず館に。」信昌は帰城した一行を門の中へ誘導した。

「信昌、お礼がてら空閑勢に、腹いっぴゃー飯ばくわせてやってくいさいて、母上に言うとって。そいからくさん、」

隆信は信昌の肩をぽんと叩いた。

「空閑どんの館の方に使いしてくさん、縁者ば全員、こったい避難させてやれ。ここやったら当分飯も食わるっし、全力で守りきっけんが。」

「は、御意にごさる。」信昌は答え、館の中へと消えた。信友はその場に残って、隆信と空閑、大将同士のやりとりを聴いていた。


「かたじけない。」空閑は隆信へ、一礼した。

「いや、なんのなんの。恩に報いらるっごと全力ば尽くすばい。ばってん知っての如く、国中ほとんどの領主が大友に靡いたけん、また対処法ば練らんぎいかん。何か良か知恵の有んないば、貸してくれんかにゃ。」

「ふむ・・・。そいぎ、龍造寺の与党はだいの居る?」

「うん。小城の千葉介殿、鴨打、徳島にはもう村中城の外に陣ば張ってもろうとぉ。」


空閑は苦笑した。「そいだけか。小田とか江上とか姻戚は?」

「ま、言わずもがな。はは。」

龍造寺家の姻戚である諸家も、この度の大友宗麟の一大動座劇に従い、隆信を見放した。
だが隆信はその事情、理解できた。さもありなん。戦国の世の習いである。

おそらく我が家は、ここで滅亡の憂き目を見るだろう。半ば諦めの気持ちがあった。

但し。万一、逆転できたらその時はきゃつらを断じて、容赦しない。

そう心に決めていた。




(続)
スポンサーサイト

FC2blog テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学

【2012/08/11 03:46】 | 歴史のこと
トラックバック(0) |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。